SNSが発達して、ことさら聞かれるようになったのが「ブランディング」。猫も杓子もブランディングで、いまやその言葉を聞いたことがない人などいないくらいかもしれません。私たちが請け負う案件でも「企業ブランディングをしたい」という要件は年々増えているように感じます。
ですが、「ブランディングってなんですか?」と聞かれたら、はっきり答えられる人はどれくらいいるでしょうか。ただカッコいいホームページを作ることではありません。ただSNSで発信することでもありません。
今回は「ブランディングとは結局何なのか」、そしてわたしが見てきたなかで「このやりかたは一生続けてもうまくいかない」と考えるブランディングについて見解をお伝えしたいと思います。
ブランディングとは
ブランディングとは、自社に有利なブランドを構築することです。突き詰めて考えるとブランディングの目的は「売上を伸ばすこと」ですから、自社に有利なブランドとは「売上に貢献するブランド」のことだといえます。
ブランドの定義
では、ブランドとはなんでしょうか。10年以上広告に携わり、机上・実践でさまざまな勉強をしてきたわたしの答えはこれです。
「ユーザーが持っている、その会社に対する知識」のことです
ちなみに、教科書的な定義はこちらをどうぞ。
アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを、「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」と定義している。ブランドはこのように、同じニーズを満たすために設計された他の製品やサービスから、何らかの方法で、その製品やサービスを差別化する特徴を加えた製品やサービスである。
フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー著『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』
(丸善出版株式会社、2014年)
つまりブランドとは、同じカテゴリーの商品群から自社(または自社製品)を識別してもらうことができる【何か】なのですね。
ブランドには大切な要素がふたつあります。それは、
- 思い出すきっかけ
- 思い出す内容
参考)このふたつの要素についてマーケターの山口義宏さんは、思い出すきっかけ=識別記号、思い出す内容=知覚価値と定義しています。(参考記事)
ー 思い出すきっかけ
「思い出すきっかけ」の、代表的なものはロゴマークです。たとえば、
右を向いた青い鳥を見たら?
Twitterですよね。日本中で使われていて、オタク文化の牽引からビジネス推進まで、幅広く利用されているトレンドメーカーです。それでは、
黄色いMの文字を見たら?
マクドナルドですよね。思い出すのは、こどもの心を掴んで離さないハッピーセット、おとなも無性に食べたくなるジャンクなポテトフライです。では最後に、
黒のシュインッッとなったやつを見たら?
それはもうNIKEに決まっていますね(断言)。スニーカーブームのパイオニア、スポーツブランドといえばこれというかたも多いのではないでしょうか。
こんなふうに、見ただけで企業名やそれに紐づく情報が思い浮かべられるもの、それが「思い出すきっかけ」です。
ロゴマーク以外にも、五感で認識できるものなら何でもOK。
- 会社名
- ホームページやチラシのデザイン
- 社長の顔、名前、しゃべりかた
- 店舗でいつも使っている香り
- スタッフの制服
- ブランドキャラクター、ブランドカラー などなど
この「思い出すきっかけ」にとってもっとも重要なことは、思い出しやすいことです。
たとえば弊社では「ブランドイラスト」を採用しており、それらは一貫してイラストレーターのオガワナツミさんに依頼しています。ブランドイラストを選定するにあたって絶対に譲れなかった条件、それは「一度見たら忘れられないイラスト」であることでした。
弊社は企業さま相手にお仕事するBtoBですから、あまりにフザケすぎていてはいけません。でも、どこか「毒気」のようなものを持ち、見た人の心にぴたっと張り付いて離れないような図々しいイラスト。そんな条件でこのイラストはつくられています。
ー 思い出す内容
続いての「思い出す内容」には、意味のあるものないものすべてを含みます。たとえば、スターバックスコーヒーであれば、わたしは
- コーヒー屋さん
- というかフラペチーノ屋さん
- オシャレで居心地がいい空間
- でもいつも混んでる
- コンセント席でPCを開いているビジネスマン
- ロゴマークの人魚はダブルピースじゃなくて尾びれがふたつ
などを思い出します。上記の箇条書きを見て、「個人の偏見が強すぎるだろ」と思いましたか? じつは、そのとおりなのです。
ユーザーがきっかけに触れて「思い出す内容」は、企業側でコントロールできるものばかりではありません。ブランドとは「ユーザーが持っている、その会社に対する知識」のことですから、わたしにとってスターバックスコーヒーというブランドは(勘違いも含めて)これらすべてのものなのです。
ではあらためて、ブランディングとは?
ブランディングとは自社に有利なブランドを構築することでしたよね。
なぜわざわざ「『有利な』ブランドを構築」と書いたのか? もうおわかりかと思いますが、それは前述のとおり、何かをきっかけに思い出す内容(ブランド)には、企業にとって有利なもの・不利なもの、どうでもいいもの、事実と異なる勘違いと様々あるからです。
結局ユーザーがどう感じたかがすべてなので100%コントロールできるものではないのですが、それらをできる限り有利なポジションに持っていくこと。それがブランディングの正体です。
そのためにおこなう具体的な手段は多様にあります。
- ロゴ、ホームページなどのデザイン
- CM、チラシなどの広告
- 社長の語り口
- 店舗スタッフの対応、電話対応
- 店舗の品揃え、商品の質 などなど
「ブランディングとはデザインのことだ」と思われていたかたもいらっしゃるかもしれませんが、実際にはユーザーが受け取る情報であればすべてがブランディング手段になりえるのです。
ブランディングに期待できること
ブランディングに期待できることは「ハードルを下げること」だとわたしは考えます。
ブランディングの第一段階は「名前を覚えてもらう」ですが、名前以外何も知らなくても、まったく聞いたことがないよりは格段にハードルが下がりますよね。
絶対にうまくいかないブランディングのやりかた
さて、ようやく本題です。ブランディングには、【絶対にうまくいく方法】はなんてものはないけれど、【絶対にうまくいかない方法】ならあると断言できます。しかも、それは意外とみなさん陥りがちな間違いです。
絶対にうまくいかないのは、思い出すきっかけをなおざりにしたブランディング
思い出すきっかけとセットでない“ブランディング”では、絶対にうまくいきません。
というか、ブランディングとも(わたしは)呼びません。
たとえば、感動的なキャッチコピーが踊るオシャレなポスター。SNSでたびたび話題になりますが、その社名を覚えているというひとはどれくらいいるでしょうか。
もしくは、SNSのアカウント名が普段のビジネスネームと違うかた。自社ホームページであなたの名前を見たとき、SNSで積み上げたイメージと紐づけて考えられるひとがどれだけいるでしょうか。
ブランドを箱のようなものと想像してみてください。「思い出すきっかけ」で識別されるその箱に、「思い出す内容」がたまっていきます。
でも、感動的なキャッチコピーを見たそのときに、「思い出すきっかけ」が貼られた箱が用意されていなかったら(もしくはその「きっかけ」が印象に残らないほど小さかったら)? あの感動的な言葉を発していたのは〇〇株式会社だと理解することはなく、当然ながら〇〇株式会社の名前を見たときにあの感動的な言葉を思い出すこともありません。
ブランディングの第一歩かつ最も重要なこと
片山義丈さんは著書『実務家ブランド論』のなかで、知られていないブランドに対し「企業や商品が知られていない段階では、まだブランドという存在ではありません。」と表現しています。
ブランドがブランドになるために必要な第一歩は、知られることです。そしてここがいちばんハードルが高いところでもあるのですが……(涙)。
ちなみにこの本はわたしのバイブルです。何度も何度も読み返し実務にも取り入れているので、みなさまもぜひご一読ください。
「思い出すきっかけ」は絶対にコロコロ変えないで
ブランディングとは、カッコいいロゴをつくることではありません。ブランディングとは、カッコよかろうがよくなかろうが、そのロゴに「思い出す内容」をためていくことです。
SNSアイコンをコロコロと変えていませんか?
SNSアカウント名はブランドの箱として機能するものになっていますか?
せっかく限りある時間とお金をつかうのですから、正しい方向で努力を積み重ねていきたいですよね。